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2007/12/25

INLAND EMPIRE

INLAND EMPIRE

シネマテークたかさき

クリスマス・イブを1人映画館で過ごす羽目になったのも自分の不徳が致すところ。
まあ、3時間という上映時間に怖気をふるわれて断られてしまったんだけど。
年を喰うと「あなたの行くところなら」という事が無くなるのが困りものですな。

デヴィッド・リンチという人はその時々の自分の近況や心情をそのままフィルムに叩き付けてしまう人で、そういう意味ではまさに「作家」。

デビュー作「イレイザーヘッド」からして「できちゃった婚をする羽目になった男の苦悩」を描いているし、「ブルーヴェルベット」は「思春期の終焉」、「ロスト・ハイウェイ」は「中年を迎えた男の不能」というどうしようもなくストレートなもの、「マルホランド・ドライブ」は自分を見捨てたハリウッドへの呪詛といった具合で、その表現方法はともかくとして、テーマというか映画の中で通底している心情は非常に分かり易い。
「ロスト・ハイウェイ」以降エンターテイメント業界を舞台にした作品ばかりになっているのは、「主人公は自分」だからだろう。

ここから外れるのが「エレファント・マン」「砂の惑星・デューン」「ワイルド・アット・ハート」「ストレイト・ストーリー」で、どれも雇われ仕事か原作がある作品で、ストーリーを「自分そのもの」には出来なかったという共通点がある。
もう一つの例外としては「ツイン・ピークス」。
これはリンチ自身がかつて見た50年代ソープオペラへのオマージュということで、「自分のこと」ではなく「自分の趣味」を扱ったもの。映像の中にある程度メジャーな「共通言語」を込められる分、こっちの方が商業的な成功を見込める(ティム・バートンとか)と思うんだけど、リンチはそっち方面には向かわず、自分にしか分からない表現方法で自分の心情を描き続ける事に賭けている。
そういった作品の中で「ブルーヴェルベット」が「普通の作品」に仕上がっているのは、今現在の心境ではなく過去を扱っていて、時間軸に沿ったストーリーにしやすかったからじゃないかと思う。他はほとんど「製作当時の心情」だからなあ。

で、今回の「インランド・エンパイア」。
パンフレットによると、5つのストーリーを分解して再構築して1つにまとめたものだそうで、メインを為す部分は「ハリウッドで再起を図る女優」の物語。リンチの心情に一番近いのがこれだろう。その他のストーリーとしては「結婚した女がひどい目に遭う」というのが2本。去年離婚してるからか? これは映画内映画で1つが「再起を図る女優」の主演映画、もう1つはその映画の元となった映画。
あとは50年代テレビコメディのパロディが1本(キャストがウサギの被り物、ナオミ・ワッツが出演してるんだか声だけ提供してるんだか)に、これらのストーリーをテレビで眺めている女の子をひたすら撮っているというのが1本。これを「ストーリー」と言っていいのか?
現実と映画内映画が果てしなく交錯して云々、とはパンフレットにも批評にも書かれているけれど、実際には映画内映画になるとローラ・ダーンやジャスティン・セローは役名で呼ばれるようになるので、意外に見分けは付きやすい。リメイク元はポーランド語になるし。
ストーリーの切替は登場人物の台詞。これがキーワードになって別のストーリーに移ったり移らなかったりして口承文学っぽい作り。
そして途中からストーリーはほとんど映画内映画だけになってしまう。
でも、それぞれのストーリーの決着をちゃんと付けてしまうのが凄い。
ラストはエピソードとして語られた「興味深い人物」達が実際に登場してしまい、「大団円」感を盛り上げてくれる。ワイルド・アット・ハートでもありましたな。トーマス・F・ウィルソンが演じる精神病患者のエピソード。あれはラストじゃなかったけど。

描写方法は「それぞれのストーリーの中で美味しいと思われる映像」のダイジェスト。いわば映像のカットアップみたいな作りで、それ故にリンチと波長の近い人なら例え3時間であっても退屈しない。途中でリンチお好みのロリ顔で巨乳という女の子が大挙登場するし(映画内映画でローラ・ダーンが不倫している相手の元カノらしい)。
ストーリーは確かに5本分あったのかも知れないけど、リンチの頭の中にしか無いらしい。だからリンチは自分が興味の湧くシーンだけ撮って完成する事は放棄して、それを寄せ集めたのかも知れないし、このうちの1本が独立して次作になるかも知れない。
ウサギの被り物ドラマはサイトで公開しているらしいけど、これで1本撮ったら、それはそれで面白い気はする。
ローラ・ダーン主演の映画内映画がメインになったのは、それが一番多くのシーンを着想させてくれたからでしょうな。ウサギの映画からのインスパイアが多かったらそっちがメインになってたと思う。

で、この撮り方で思い出したのはイタリアン・ホラーの雄、ルチオ・フルチのゾンビ・シリーズ。「サンゲリア」を除くとどれも「とりあえず客を呼べそうな残虐シーンを撮ってあとは適当に繋ぐ」という見上げた商魂によって仕上げられた作品群は、何が言いたいのかよく分からないストーリーなのにちゃんと「ホラーマニア向け」の商品にはなっていた。
そういう意味で、リンチがリンチマニア向けにのみ商売をする気しかないのなら、今回の製作方法は圧倒的に正解。

ハリウッド大作を見て「あれ? もう終わり?」と微妙に喰い足りない気分になる人はこの映画を見るといいかも知れない。自分の中のビザール趣味を発見するかも知れないし、そうでなくても3時間の仮眠はとれます。

自分は「パイレーツ・オブ・カリビアン」とか見て「ジョニー・デップは面白いけど、なんか物足りないなあ」と思っていたクチなので、これを見て「ああ、そうか、後引かないからか」という事を今更ながら思い出した。まあ、ハリウッド大作はそれだけ商品としての完成度が高い、って事なんだろうけど。

あとは思いついた事をつらつら書くと、
映画内映画を見る限り、リンチって変態とか言われているけれど、男尊女卑指向の強いピューリタン、ってのが改めてよく分かる。あと黒人は嫌いらしい、ってのも。
ジェレミー・アイアンズはいつもの演技に比べて「普通」過ぎて、最初は本人だと分からなかった。通常の仕事ではタイプキャストの罠にはまっている模様。
ジャスティン・セローはカイル・マクラクランの後継者になりつつあるらしい。
ハリー・ディーン・スタントンってまだ生きてたのか。コメディリリーフ。
裕木奈江が間違いなく出演している事を確認。生きて動く彼女を見るのは個人的に15年ぶりくらいだが、どこかイラッとさせられる台詞回しは英語でも健在。しかし37には見えないなあ。

自分が最初に劇場で見たリンチ作品が「ワイルド・アット・ハート」。
「ツイン・ピークス」ブームの真っ最中だったので大変な入りだったけど、その後は新作を見に行く度に観客が減っていく事を肌で感じさせてくれる。今回はミニシアター・シネマテークたかさきで鑑賞したものの、客は数えるほど。ぎりぎり両手くらいいたか。まあ、いいけど。
作家本人の心情と観客というか一般社会に漂う雰囲気がシンクロしない限りブレイクするのは難しいでしょうな。
「ブルーヴェルベット」の時は「50年代回帰」みたいな波に乗れたんだろうなあ。

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