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2007/07/09

失われた男

失われた男(Amazon.co.jp)

今のところ訳出されているトンプスン作品の主人公の性格は大体決まっていて、
「確かに頭は斬れるが、自分が思っているほどは斬れてはいない」
自意識過剰気味な20代後半から30代くらいの男。
そして「理由はどうあれ自分は世間に貸しがある」という無意味な怒りを胸に秘めている。
話の展開も大体一緒で、ハメたつもりでハメられたか、ハメられはしなかったもののにっちもさっちもいかない状態に落ち込んで、破滅かそれに近い状態になったところで終了。
毛色が違うのは「残酷な夜」くらいか。これはミステリーと呼ぶのもちょっと違う気がするけど。

「失われた男」はこのトンプスンパターンにぴったりハマる。

ちっぽけな町のちっぽけな新聞社で頭の鈍い社長や同僚たちを舌先三寸で調子に乗らせるかやり込める男。
突っ込む相手もいないので類い稀なる資質を持つと自分で思っている彼が、完全犯罪をユルく完遂させたと思っていたら、鈍い奴の1人と思っていた男の手の中で踊っていただけだったという事実を知ることになる。
この主人公には詩を書く趣味があり、アルコール依存症という特徴が加わるので、今まで訳出された作品の中では一番作者に近いかも知れない。

「こいつは最後まできちんとやらない男なんだ」

間接的に主人公を評した言葉。
そしてきちんとやらないがために、空虚と知った自分と付き合い続けなければいけないことを思い知らされるラスト。

トンプスン作品に没入できるのは、主人公の心情が他人事とは思えない(きちんとできない)男たちだと思う。
全作品とも全くすっきりとしないラストに深く同意できてしまうのは、そんなところにあるのだろう。
ポジティブな人生を送っているとは言えない人たちには深く刺さる作品であることは間違いない。ただし、そんな状況をある程度笑い飛ばせる余裕があれば、だが。

ところでこの作品、主人公はきちんとしていないながら、その他登場人物たちが持つちょっとした謎やその後の生活にぞんざいながらちゃんとフォローが入っている。
てっきり伏線かと思った謎がなんてことなかったりする部分は拍子抜けだが、それなりに収束させているところを見ると編集者から突っ込みが入ったのか、実在の人物をモデルにしていてあまり突き放した書き方が出来なかったのか。
主人公が作者に近いところを考えると、案外後者かも知れない。

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