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2005/09/20

iTMS-Jには無い傑作

(Amazon.co.jp)

最近癖になりつつある「iTMSひやかし」。
大抵は新しい出会い、よりも自分の音楽体験の掘り起こしになってしまうのは年を取った証拠か。

そんな中で掘り起こしてきたのがスザンヌ・ヴェガ。
「掘り起こす」なんて言ったら一部の人は怒りそうだが。
ところが代表作であるはずの「孤独(ひとり)」がiTMS-Jのライブラリに無い。

プロデューサーのミッチェル・フレームと4年間だけ夫婦だったせいか、ググって見るとやたら彼とのコラボが取り沙汰される(リッスン・ジャパンでは説明を間違えている)が、彼女が名を挙げたのは彼と出会う前に制作した「孤独(ひとり)」に収められた「ルカ」(要iTunes)を大ヒットさせたからで、フレームの功績によるものではない。

硬質な音をバックに、ニコやパティ・スミスに通じる無機質な歌声で都会の日常を訥々と歌い上げた本作は「80年代のパティ・スミス」とか「ルー・リードの末裔」といった呼び声に相応しくスリリングな魅力に満ちていて、凡庸なヴェルベッツ・チルドレン連中には感じられない「ヴェルベッツの亡霊」がそこここに漂っていた。

「80年代のパティ・スミス」と呼ばれたのはプロデューサーの1人がパティ・スミス・グループのレニー・ケイだったこともあるが、全く名前負けしていなかった。また、R.E.Mとの仕事で有名なミッチ・イースターも1曲だけ参加している。

このアルバムが発表される直前、色々引き合いに出されることになるルー・リードが「NEW YORK(Amazon.co.jp)」で復活していたというタイミングにも恵まれた。

人脈、アルバムの仕上がり、そしてインタビューでも「ルー・リードのライブを見て歌手になろうと思った」というマニア泣かせの発言をすることから、ニューヨークアンダーグラウンド派の意を継ぐ者として期待されていた彼女だが、続く「夢紡ぎ(これもiTMS-JにはないのでAmazon.co.jp)」は無難な仕上がり。大ヒットのプレッシャーに苛まれての事だと思うが、そんな頃に出会ったのがミッチェル・フレーム。そしてこの辺りから様子がおかしくなる。

フレーム言うところの「テクノフォーク」を押しつけられて、分厚い音作りになった「微熱」(要iTunes)で彼女の魅力は雲散霧消。
ずいぶんな方向転換だなあ、と思ったが、惚れた男の言う事を聞いたというのではやむを得まい。

ちなみに師匠のルー・リードも「ミストライアル(Amazon.co.jp)」という確かにそのとおりの名を持つアルバムで打ち込み系に走ってコケたという前科があるが、カミさんのためではないと思った。

しかし、いくら惚れた男のために頑張ってみても、フォークはフォークでもカントリー・フォークのような「現場で鍛え上げられた声量」を持つ訳でない彼女の特質はこの手の音作りには馴染まない。
だからこの頃に離れてしまったファンも多いと思う。自分もその1人。けなげにシャウトしてみせる姿には涙したが。

さて、フレームとできちゃった婚をして産休に入ってさすがに我に返ったのか、続く「欲望の9つの対象」(要iTunes)では彼女が主導権を取り戻したらしく、歌声をある程度生かした作品となっている。

しかしコステロ辺りと組んでジャンル音楽をひねり倒すのが得意な旦那にとっては意に添わないものだったのか、これならおれじゃなくてもいいじゃん、とでも思ってそれが夫婦間の亀裂に、、、かどうかは知らないがこのアルバムの発表後2年を経て、2人は別れる。

で、再び孤独(ひとり)に戻った彼女が原点回帰して作ったのが「ソングス・イン・レッド・アンド・グレイ」(要iTunes)。
ファーストアルバム「街角の詩」(要iTunes)の少女が成長した姿として聞くと確かに違和感はなく、そういう意味では確かに原点に回帰しているものの、「孤独(ひとり)」でオルタナ(当時そんな言葉はなかったけれど)好きを仰天させてくれた鋭さはもう期待できないことが分かるアルバムでもある。

そんな勝手な思い込みは彼女にとっては迷惑でしかないだろうけど、伝説を引き受ける力はもう無いだろう。英語ネイティブにとっての優れた詩人ではあるだろうけど。

ただ、あの手のスリリングさはマリアンヌ・フェイスフルみたいに地獄巡りしてから得るのが普通なだけに、生まれつきその資質を持っていた、でも無くしちゃった、という点が惜しいんだよなあ。

ちなみに「微熱」から遅れる事4年、フレームが女房を使うのは諦めた頃に、ベックが「オディレイ」(要iTunes)1発で「テクノフォーク」を完成させてしまい、最大手のニューヨークオルタナ系として君臨してしまうのであった。
同じく「ニューヨークという都市」をいろんな意味でバックグラウンドとするミュージシャンとして、ひょっとしたらベックは「微熱」からインスピレーションを得ているんじゃないだろうか。
仕上がったものは似ても似付かないが、これは単にフレームの着想は良かったが方向性が間違っていたということなのかなあ、と書いていて思った次第。

そんな訳で、スザンヌ・ヴェガ一期一会の傑作、「孤独(ひとり)」。テレ東の音楽番組でも採用されている「トムズ・ダイナー」(要iTunes)のアカペラ仕様はベスト版では聞けないので、ぜひこちらをご一聴。

12/31追記・無事、ライブラリに加わっていた模様。

Solitude Standing
(要iTunes)

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