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2005/05/19

山本昌邦指南録

Shinanrokuタイトルの付け方に色々言われているが、「著者本人が指南した事実の記録」ということで、指南方法のイロハを記録しているわけではない。

と、アタマでは分かっていたものの、やっぱりタイトルの影響もあって(笑)、発売直後に購入はしていたがなかなか読む気にならず、結局このような中途半端な時期になって手に取ることになった。
備忘録」が結構腹の立つ本だった、という事もあるが。

文章は平易で大変読みやすい。一晩で読める。

前半は山本監督自身の半生記。
興味深いのはコーチ転身以後に関わったビッグイベント「ドーハの悲劇」「アトランタ五輪」の回顧。
日本サッカーがアジアから世界へとシンクロの度合いを拡散させていく際に当事者が肌で感じたことの記録となっているだけでなく、感傷的に語られやすいこの2つの節目が客観的に分析されている点が新鮮。
これはすでに時間が経過している事と、監督や選手でなくコーチというやや引いた立場から見ることが出来たから、と思われる。

実際に自身が「指南した記録」となるアテネ五輪となると、時間も経っておらず引いた立場でもなかった事から第三者的な視点は当然なくなる。

特にアトランタのブラジル戦とアテネのイタリア戦に対する記述の違いにそれが感じられる。
ブラジルに対しては「ロナウドは高さがあったので松田にこう指示した」「リバウドはまだパッサーだったので助かった」とそれぞれの選手を分析する余裕があるが、イタリアに対しては「ジラルディーノがあんなに凄いとは思わなかった」という、アトランタでもっと凄かったチームと対戦した当事者とは思えない感想を思わず吐露してしまう。
「生で見てみないと分からない部分もある」と述べてはいるものの、自チームの面倒で手一杯だったという事が分かる瞬間であり、筆者は一言も書いていないが「コーチと監督は違う」という事を臨場感を以て感じさせてくれる。

この臨場感はアテネ五輪代表に関する記述に共通して感じ取れる。
だから「本戦から逆算した日数を元に目の前の試合をどう進めるかというプランの遂行だけで一杯いっぱい」という切羽詰まった感触を筆者と共有できるので、正直言って前半よりも読んでいて面白い。
職場で「リーダークラス一歩手前」の立場にいて、リーダーの仕事ぶりを眺めながら「俺がやればもっと上手くやれる」と考えている人が読むと身につまされるんじゃないだろうか。

ちなみにその中間的立場といえた「日韓W杯」に関する記述はほとんど無い。
今更書く事もないんだろう。
備忘録が原因でトルシエと仲違いした事なんか無い、という補足があるくらい。

感情論と自身のサッカー観が交錯した挙げ句、冷静なドキュメンタリーとしても感情的な暴露本としても中途半端なまま、トルシエ観察記と化した「備忘録」と比較して、山本監督自身のサッカー観、サッカーに限らない組織論としては当然の事ながら遙かにまとまっている。
前半が理論で、後半のアテネ五輪が実践、といったところか。

更に「備忘録」には上司との葛藤を抱えて仕事を続けるという、そこら辺の勤め人にとってもリアルすぎる悲哀が全ての章に感じ取れ、読んでいて嫌になる部分が結構ある。
「備忘録」を先に読むと、トルシエに対してだけでなく、山本監督に関してもいい感情を抱けなくなるから、むしろこちらを先に読んで2002W杯の大騒動に興味を持ったら「備忘録」を読む方という形にした方がいいかも知れない。
もちろん「山本監督のサッカー観に興味がある」人限定のお勧めとなるが。

巻末付録(?)の「山本昌邦 指南三十六法」は余計。
この手のノウハウで金を取るなら、誰もがひれ伏す圧倒的な実績を背負っていなければならない。
その資格がある日本国内のサッカー監督は、岡田武史かトニーニョ・セレーゾ。Jリーグの成績に限らなければイビチャ・オシムか、エメルソン・レオンくらいだろう。
だから「付録」か。

ついでに表紙写真にはわざと帯を付けてみた。
ここにある「日本型組織と日本型リーダーシップの云々」というコピーはかなりの拡大解釈なので、何かサッカー以上のものを求めて読んだ人は肩すかしを食らうんじゃないだろうか。

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