« バーニー:「魑魅魍魎」の「魑魅魍」あたりまでを担当 | トップページ | 最強の死んでゆく系 »

2004/12/10

リジー・ボーデン事件の真相

LIZZIE_BORDEN

20年以上昔、リジー・ボーデンと名乗るヘビメタバンドがいたが、今もいるんだろうか?

リジー・ボーデン事件に関してはこれ1冊で事足りる。後はいらない。

リジー・ボーデン事件とは、100年以上前のアメリカでオールドミスの、いわゆる「負け犬」の次女が父と養母を惨殺したが見事無罪になったという事件。
アメリカでは戯れ歌が人々の口の端に上るほど有名な事件らしいが、ピューリタニズム過ぎた19世紀のアメリカならともかく、現代の目で見れば特に驚くほどの事件ではなく、登場人物にも華がないうえ、謎解きとしての興味もない(ほぼ100%リジーの犯行)。

同時年代に起きたアルフレッド・パッカーの人肉嗜食事件に比べれば、わざわざ紹介する気も起きないような事件であり、実際、「鬼畜ブーム」の中でもほとんど取り上げられることはなく、コリン・ウイルソンや柳下毅一郎といった「いつもの面々」による断片、あるいは概要のみの紹介にとどまってきていた。

そんなブームも遠い昔の話となった今、突然この本が登場した。
もっとも著者、仁賀克雄にとっては突然ではないそうで、ロバート・ブロックの短編「斧を握ったリジー・ボーデンは」を翻訳した時に興味を持ち、その後こつこつと資料を集めていって、とうとう一冊の書籍にまとめるまでに至ったのだという。

その年月40年以上。
これだけの年月をかけただけあり、事実関係の記述に曖昧なものはない。
それ故にリジー自身の供述の曖昧さが際だつ。
途中まではあまり賢いとは言えない彼女が徐々に追いつめられていく様が描かれており、一種の推理ものを読む楽しみを味わえる。
このあたりの描写はミステリーを多く翻訳している著者ならでは。

ところが事実は小説ではない。後半の裁判に入ると追求は腰砕け。
検察官はハンカチにどうやってアイロンをかけたとか、本筋と関係のないことに変なこだわりを見せ、リジー自身も事件直後と異なり、冷静さを失わずにピントのずれた質問に答え続けた挙げ句、無罪を勝ち取る。

この事件が後世に残った理由としては、当時は珍しかった「動機のない殺人」であったことと、リジー自身が罪悪感というものを全く感じなかったらしい、という点で、この2つが古くさい背景を持つこの事件にモダンな彩りを加えている。
この手の犯罪者は最近では珍しくなくなってしまったが、それが非常に単純化された100年前のモデルケースがこれ。
背景だけは2時間ドラマでよく見かけるが、あちらの「湿り気」はどうも性に合わない、という人が読むと面白いかも。

ところで、コリン・ウイルソンはリジー事件が後世に残った理由として「アメリカ人にとっての回顧アイテムとなったから」と書いている。

そういう意味では切り裂きジャックに似た存在といえるだろう。

切り裂きジャックは単なる連続殺人鬼という存在にとどまらず、ガス灯に煙るヴィクトリア朝の記念碑であり、その時代を回顧するためには欠かせないアイテムとなっている。
アメリカにおけるそんな存在がリジーであり、「回顧アイテム」ということでは、ほぼ同時代のキャラクターである「トム・ソーヤーの暗黒版」といえるだろう。
そういえばこの2人、年齢も近いんじゃないだろうか。

ただ、スタイリッシュなヴィクトリア朝のロンドンと違い、100年前の蒸し暑いピルグリム・ファーザーの地に思い入れを持てるのはアメリカ人くらいだろう。
リジー・ボーデンがアメリカ限定の有名犯罪者であり続けたという理由は、こんなところにあるのかも知れない。

« バーニー:「魑魅魍魎」の「魑魅魍」あたりまでを担当 | トップページ | 最強の死んでゆく系 »

コメント

Nice boatスレから来ました。

今週アタマにちょこっとアクセスが増えたのは、そういう事ですか。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/47427/2213763

この記事へのトラックバック一覧です: リジー・ボーデン事件の真相:

« バーニー:「魑魅魍魎」の「魑魅魍」あたりまでを担当 | トップページ | 最強の死んでゆく系 »

2016年11月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      

Googleサイト内検索

観戦、旅行、その他諸々

フォト